第000話 神話を求めて……


序章 神父と助手の会話

「白鳥君、そこの荷物を取ってくれないか?」
「はい、神父、これですか?」
ジョージ001話01 「そうそう、これだ、これだ」
「何ですか、それ?」
「ん?……あぁ、ワシももう年だし、せめてあの子達に仕送りでも出来ないかと思ってね。これはその資料の一つじゃ」
「アイテムの仕送りですか?」
「そう。優秀な子もおれば、少々頼りない子も送り出してしもうたからな。これは、その子のためのサポートアイテムに良いかなと思ってな」
「導造(どうぞう)君の事ですね。あの子は臆病だから……」
「臆病な事は悪いことじゃない。時には恐れる事も必要じゃよ」
「そうなんですか?そう言えば、ジョージ神父は現役の頃、怖い者無しの敵無しだったんじゃないですか?今はその後継者として吟侍(ぎんじ)君が有力でしょうけど……」
「当時はバカだったんじゃ、ワシは……敵無しなどではなかった」
「良かったら聞かせていただけませんか?神父の若かりし頃の話、聞きたいです」
「白鳥君……このセカンド・アースに移り住んでいる時点でワシは九千歳を超えとった。若くはない……じゃが、いつかは地球の支配者にと考えておった愚かな男じゃった」
「今の神父からは想像もつかないですね」
「ソロモン王、サンジェルマン伯爵、ロジャー・ベーコン、グリゴリー・ラスプーチン、アレイスター・クロウリー……名前と姿をいくつも変えながら、ワシは地球上で九千年近くを過ごした……ただ、地球上最高の権力を欲してな」
「……はぁ……」
「やがて、他者に疎まれ、ワシは地球を追い出された。必要ないとされてな。僅かに残った仲間達と共に、セカンド・アースを開拓している間もワシは地球に復讐をしてやるつもりでいた。とんだ悪党だったのだ」
「そんな……」
「この悪党の昔話をそれでも聞きたいかい?」
「……はい。聞きたいです。それと、ジョージ神父は悪党ではないと思いますよ。こんなに吟侍君達の事を心配なさっているし」
「白鳥君がそう言ってくれる気持ちは嬉しいが、やはり、少なくとも当時は悪党じゃった。クアンスティータという規格外の化獣(ばけもの)を知って、支配する事が急に怖くなった、ただの臆病者。それがワシじゃ。……じゃが、今では、臆病になるのは決して悪いことではないと思っとるがの。……さて、それでは、話すかの。ワシの昔話を。当時ワシは神話を集めておった……」
 神父は助手に語り始めた。


第一章 ジョージ・オールウェイズという人物の探索

「ハンガーポール神話、こいつも大した事無いな。日本神話とエジプト神話を足して二で割ったものの劣化版と言ったところか。……話しにならん」
 俺は、ジョージ。
ジョージ001話02 ジョージ・オールウェイズと今は名乗っている。
 ソロモン王、フランシス・ベーコン、ナポレオン・ボナパルト、クリストファー・コロンブス、安倍晴明…俺は様々な名前を名乗り、姿形、言葉を換えて幾千の刻を過ごして来た。
 世界大戦の折、俺はお払い箱となり、地球外に追い出された。
 正確には殺されそうになったのを命からがら地球の外に逃げのびたんだ。
 この恨みは忘れない。
 いつか必ず、復讐してやる。
 だが、俺は急速に発展する科学の前に屈した。
 奴らの科学力はやがて、魔法にも追いつき、区別がつかなくなる程の力を得るだろう。
 奴らに対抗するには、力がいる。
 圧倒的な力が。
 では、力とは何か?
 魔法……だめだ、奴らと同じ土俵でものを考えては、数に勝る奴らに勝てはしない。
 ならば、何がある?
 そうだ、神話だ。
 人間は神を敬い、神を恐れる。
 その神話の力を手にするのだ。
 地球の神ではない。
 地球外の神の力を手にするんだ。
 そうすれば、奴らなど、瞬く間に叩き潰してくれる。
 探すんだ。
 地球で語り継がれる神話を超える神話を探すんだ。

 俺は、探し回った。
 様々な異星人の住む星々を。
 だが、何処の神話も大した事はなかった。
 地球の神話の方がどう見ても物語として完成されている。
 これらの神話の力を手にしても、地球神話の前に屈するだろう。
 やつらとて神話の力を引き出す技術を身につけているかも知れん。
 だとしたら勝ち目はない。
 ハンガーポール神話――こいつで九百ととんで七つ目だ。
 これだけ、探し回ってもろくな神話が無い。
 それに、この907の神話に共通する事は全てが、地球の北欧神話、ラグナロクの様な終末的思想が後付けされている。
 個性が無いというか何というか……
 俺は半ば呆れると共に、各神話の最後に出てくる【クアンスティータ】という謎の言葉に興味を持っていた。
 各神話の終末には必ず、その【クアンスティータ】という言葉が関わっている。
 なんの言葉だ、これは?
 だが、その言葉は、様々な神話を終わらせる程、強大な何かだという事は予想がついた。

 だから、俺はこの【クアンスティータ】という言葉を追っている。
 この言葉を知る者を探して旅をしている。
 現在、同行者は二名。
 後は、居ない。
 俺の仲間達の大半は子供を作り、俺の作り出したホムンクルス達と共に、既に、メロディアス王国、ニックイニシャル帝国、アナザス皇国という三つの国を建国し、統治を初めている。
 主人である俺だけが浮いた存在になってしまった。
 俺は自身の半分の技術を詰め込んだ最強のホムンクルス、クラシック・ハルモニウムを完成させて旅に出たが、思わぬオマケがついてきた。

「ちょっと待って下さい、お父さん」
「誰がお父さんだ」
「あなたです、ジョージさん」
「俺はお前に父親呼ばわりされる覚えはない」
ジョージ001話03 「あるじゃないですか。クラシックさんを僕にください。必ず、幸せにしてみせます」
「クラシックは戦闘用ホムンクルスだ。住民用に作り出した訳じゃない。とっとと、自分の国に帰れ」
「僕にはクラシックさん以外を妻にとは考えて居ません。ぜひ、このギャロップ・オルタード・メロディアスの王妃として」

 そう、オマケとは三つの国の一つ、メロディアス王国の現、国王、ギャロップだ。
 国をほっぽり投げて俺にくっついて来ている。
 一体、何を考えているんだか。
 国王も国王だが、それを許す、国民も国民だ。
 どうかしている。
 正直、戦闘能力は皆無に等しいし、足手まとい以外の何者でもない。
 仮にも国王だから、無下には出来ないとここまでの同行を許してしまっていたが、そろそろ、うんざりしているところだ。

 俺と、クラシック、ギャロップの三人での旅もそろそろ、限界かと考えている。
 ギャロップがいる限り、無茶な冒険は出来ない。
 俺としては、有力な情報を持っていると予想出来る賢者が四人、集まっている伝承星サーガに向かいたいんだが、あの星の危険度はギャロップには荷が重い。
 正直、置いて行きたいというのが本音だ。
 答えが出ないまま、ハンガーポール神話の伝承を聞くなんていう寄り道をしてしまった。

「【クアースリータ】でしたっけ?そいつを探しに行くんでしょ?お供しますよ」
「……【クアースリータ】は間違った伝承の可能性がある。有力なのは【クアンスティータ】の方だ。それにお前を連れて行くと言った覚えはない。正直、足手まといだ。帰ってくれ、頼むから」
「クラシックさんとの交際を認めて下さるんならすぐにでも帰りますよ」
「だから、クラシックは戦闘用だと言っているだろう」
「僕の愛妻となるべく生まれた女性です」
「しゃべれもしないホムンクルス相手にどうやって交際するつもりだ?」
「愛があれば、問題無しです、お父さん」
「お父さんはやめろ」
「では、お父様」
「そういう意味で言ったんじゃない」
「足手まといにはなりませんから」
「既になっているんだよ」
「それは、気付きませんで。ごめんなさい。頑張ります」
「はぁ……」
 俺はため息をついた。
 ギャロップは俺の仲間の子孫。
 だから、置いていく訳にもいかない。
 諦めて、俺は別ルートを探す事にした。

 不幸中の幸いか、俺達はサーガ星の4賢者の師匠だという老婆に立ち寄った酒場で会うことが出来た。

「本当か、ばあさん?」
「あぁ、本当じゃとも、あたしゃ、サーガ星の4賢者の師匠のニガティーというもんじゃ。あいつらの知っとることは、あたしが全部知っとるよ」
「なら、教えて欲しい事がある」
「タダという訳にはいかんな、何しろ貴重な情報じゃからな」
「いくらだ?」
「金は良いさ。ただ、ちぃとばかり酒をおごってくれさえすれば」
「解った。マスター、このご婦人にありったけの酒を」
 俺は店のマスターにそう告げた。
「良いんですか?このばあさん、ほら吹きで有名なんですよ。4賢者の師匠だって者が何でこんなしがない酒場で飲んだくれてんだって話です。信じるんですか、与太話を?」
 マスターはこう言ったが、
「信じる信じないは俺が決める。嘘だったならたたっ斬る。それだけだ」
「おぉこわ。ばあさん、死んだな、ぼれ、最後の酒だ。飲め」
「おぉ、ありがと、マスター。うしゃしゃ、これこれ、この大吟醸が飲みたかったんじゃ」
 ニガティーはそのまま酔いつぶれて寝てしまった。

 翌朝、二日酔い状態のニガティーをたたき起こし、【クアンスティータ】の情報を引き出した。

「おぉ……頭が割れるようじゃ。あぁ……【クアンスティータ】じゃったな。【クアンスティータ】は姉の【クアースリータ】と共に、【ファーブラ・フィクタ】神話に登場する化獣(ばけもの)じゃ。悪いことは言わん。関わるな。それがお前さんのためじゃ」

 ――との事だった。

 嘘か真かは解らない。
 だが、初めて有力っぽい情報を得た気がした。
 【クアンスティータ】も【クアースリータ】もあった。
 そして、それが、【ファーブラ・フィクタ】という神話の中に登場する何者かだという事が解った。
 それだけでも収穫だった。

「おおお……」
 俺は興奮した。
 地球の奴らに復讐出来るかも知れない有力な神話の手がかりが手に入ったからだ。
 本当か嘘か何てどうでもいい。
 とにかく、カスみたいな神話ばかり掴まされて来たが、ここで、強大な可能性を持つ神話の存在の噂が有ることに俺は喜んだ。

「ばあさん、ありがとうな。これは礼だ、とっとけ」
 俺は持ち金の半分をニガティーに渡した。
 すると、
「おぉ、こんなに……。あんたいい人そうだから、忠告しておく。決して最強を目指すな。目指した先に【クアンスティータ】がいる。あれはやばい。関わらす寝かせておくのが一番だ。目指すなら二番を目指しな。二番を名乗る神話ならあちこちにごまんとある。もっともその大半が【クアースリータ】の方に雲隠れしたがね。自ら進んで【クアースリータ】に喰われに行っとる。残っているのはそれを選択しなかった僅かな神話だ。それでも、あんたが、求める力としては十分過ぎる程のものだと思うがね」
 と言ってきた。
 おいおい、冗談じゃない。
 最強だって解っていて見逃す必要がどこにある?
 最強とされる【クアンスティータ】と大半の強者を取り込んだとされる【クアースリータ】――
 俺は、この二つの単語に興味をそそられた。
「もっとも、探してもおらんがね。生まれてないものは探しようがないけど、【クアンスティータ】を求める者には不幸がつきまとう。やめときな」
「もういい、必要な情報は手に入った。悪いが、俺は、その【ファーブラ・フィクタ】神話とやらを追う。心配しなくても俺には、地球という星で得てきたたくさんの知識がある。その最強の神話とやらも十分に使いこなしてみせる」
「どんどん、死相が濃くなってるよ、あんた。死ぬだけならまだ良い。――死より恐ろしい目にだってあうんだよ」
「くどい、俺は探す。行くぞ、クラシック」
「あ、待って下さい、お父さん」
 俺はクラシックとギャロップと共に、酒場を後にした。
 俺は、それから【ファーブラ・フィクタ】の文献探しを始めた。


第二章 【ファーブラ・フィクタ】神話を求めて

 【ファーブラ・フィクタ】神話という手がかりを見つけてからは様々な巨大な力を秘めている神話に当たっていた。
 クラシックには各神話のレベル数値を計る装置が取り付けてある。
 あくまでもクラシックの測定範囲内での数値だが、地球のギリシャ神話を1.000として、0.001から10.000までの数値レベルを計れるようになっている。
 今まではその数値を投影させていたが、ギャロップがあまりぎゃーぎゃーうるさいので、クラシックに会話機能を持たせ、しゃべらせる事にしていた。
 それによると1.000という訳にはいかないが、0.400以上にはなる数値の神話も目立ち始めていた。
 半分の数値を超えるのもそう遠くないと思える神話が多く出てきている。
 最初が、0.001以下での測定不能状態だったことを考えれば驚く程の進歩だ。
 目標は当然、1.000を超える数値を持つ神話に行き渡る事。
 【ファーブラ・フィクタ】神話は当然、超えるものだと信じている。
 残念ながら、まだ、ニガティーの言う、二番手を自負する神話には一つも出会っていない。
 だが、諦めずに、探すだけだ。
 地球の神話と違うのは本当にあるかどうか解らないものではなく、実在するというのが地球外神話の特徴だ。
 つまり、これらを取り込めばそのままそれが、戦力となる。
 俺が、神話を探すのはそういう理由だ。
 強い神話には引力のようなものがある。
 強い神話を追っていけば、いつか【ファーブラ・フィクタ】神話にたどり着くという計算だ。
 途中、たくさんの危険な目にもあった。
 強さを追い求めるとそれなりに危険な目にもあう。
 俺はソロモン王時代に契約した72柱の悪魔を元にして作った72体のゴーレム声像(せいぞう)を使役しながらそれらの危険を撃ち祓っていった。
 が、逆に、考えれば、俺に祓える程度の神話でしかないという事でもある。
 それでは、地球の奴らには勝てない。
 俺が求めるのは俺では倒せない程の力を持つ神話。
 それを制してこそ、俺の未来が開けてくるというものだからだ。

 焦る事はない。
 どんどん強い神話が出てきている。
 旅を続ける内に、俺の理想の神話にぶち当たる。
 俺はそう信じて冒険を続けた。

 旅を続ける内に、少しずつ、情報を入手していった。

 解った事――

 それは、大半の強者のいる神話は【ロストネットワールド】といういくつもの異世界が連なった大世界に取り込まれていったという事。
 【ロストネットワールド】の所有者は【クアースリータ】になる予定だと言う事。
 【クアンスティータ】も【クアースリータ】もまだ生まれていないものだという事。
 【ファーブラ・フィクタ】神話は基本的に【神御(かみ)の絵本】と【悪空魔(あくま)の絵本】という二つの絵本が存在し、その奥に【化獣(ばけもの)の絵本】という絵本が存在するという事。
 三つの絵本にはそれぞれ別の事が書かれているという事。
 【クアンスティータ】は13番、【クアースリータ】は12番という番号がふられた化獣であるという事。
 ――だった。
 それが本当なら、他に11の化獣も存在するという事になる。
 俺は少しずつとは言え、手がかりが判明していく度に、手応えのようなものを感じ始めていた。
 と、同時に生まれてもいないものを何故、それ程、恐れているのかという疑問も持っていた。
 【クアンスティータ】という謎に迫れば迫る程、俺の知的好奇心を刺激した。

「このイヴシアン神話は0.617か。もう少しだな」
 俺が、神話を求めている最中に突然、声はかかった。
「お前か?クアンスティータ様を追っているのは」
「誰だ?」
「誰でもない。何処にも居ないし何処にでも居る存在だ」
「何を言っている?解る様に説明しろ」
 怒鳴っては見たが、俺の中では歓喜していた。
 なにせ、【クアンスティータ】の名前が出たからだ。
 大本命中の大本命。
 ついに来たかと興奮した。

「お前の様な、下等な生き物が口にして良いお方ではない」
 謎の声は俺達を拒絶する。
「お父さん、この声は?」
「黙っていてくれ。今、探している。クラシック、解るか?」
「イイエ、マスター、ワカリマセン。デスガ、キケンデス」
「危険?神話の数値はいくつになっている?」
「ワカリマセン。ソクテイフノウデス。スウチハ10.000ヲ、ハルカニコエマス」
「本当か、それは?そいつは凄い。」
 俺が釣り人なら大物がかかった気分だろう。
「クラシックさん、それは【ファーブラ・フィクタ】神話で間違いないんですね」
「ギャロップサマ、ソレハチガイマス。ソレハ【ファーブラ・フィクタ】シンワトハ、ベツノナニカデスガ、オオキク、ソクテイカノウハンイヲコエタ、チカラヲヒメテイマス。ワレワレデハ、ドウシヨウモアリマセン。ニゲテクダサイ」
 そのクラシックの言葉を聞いた時、俺はギャロップを連れて咄嗟にその場から逃げ去った。
 危険を感じたからだ。
 正確には違う。
 危険を感じる感覚が麻痺したからだ。
 身体の感じる感覚を麻痺させたという事は人智を越える何かを感じてショック死しないように、身体が自己防衛で麻痺させたという事だからだ。
 俺は勘違いをしていた。
 恐らく、声の主は【ファーブラ・フィクタ】神話に連なるが、その神話に含まれないかけらの様なものだろう。
   それでも、俺の予想範囲を大きく飛び越える力を持っている。
 今の俺ではどうしようもない何かとたいじすることになる――。
 そう思うと全身の毛穴から汗が噴き出した。
 かなり離れたがそれでも震えが止まらなかった。
 俺が、その場を離れたくなるほど恐怖した?
 こんなのは九千年生きてきて、初めてだった。
 俺にあの時のニガティーの言葉が響く。
 (最強を目指すな、あれはやばい。触れちゃならない)
 あの老婆は決して間違った事を言っていたのでは無かった。
 恐らく、俺はまだ、【ファーブラ・フィクタ】神話に触れてもいない。
 だが、それでも恐ろしさはなんとなく、伝わった。
 クラシックは俺と感覚が一部リンクしている。
 クラシックが感じ取った脅威がそのまま一部流れ込んだ感じだ。
 クラシックはそのまま動かなくなってしまった。
 安全装置が作動して、機能停止したんだ。
 俺の技量ではどうしようもない何かに接触したんだ。
 五体満足に残っているだけでもありがたい話だ。
 逃げる時に、出した、72体の声像は全て消え去った。
 ――あれだけあったものが全てだ。

 何だったんだ、あれは?
 恐ろしく強い何か?という事しか解らない。

 だが、俺はこの日から、【クアンスティータ】と【クアースリータ】を追うのを止めた。
 それでも、【ファーブラ・フィクタ】神話は諦めきれないから、その代わりとして、1番から11番の化獣の事を追う事にした。
 あの二つの言葉、【クアンスティータ】と【クアースリータ】に触れなければ、【ファーブラ・フィクタ】神話を追える。
 最強を求めるなというニガティーの忠告を守る事にした。

「お父さん、まだ、【クアンスティータ】を追いかけるんですか?」
 動かなくなった最愛のホムンクルスの事を悲しんだギャロップが俺に問いかける。
「……いや、追わない。追える訳がない。【クアンスティータ】と【クアースリータ】……この二つの単語には関わらない方が良い。手に余るのはあれで十分わかった」
「なら、何故、旅の支度をするんですか?」
「クラシック……動かしたいんだろ?今までの動力ではもう動かない。新たな動力が必要だ」
「え、治せるんですか?」
「わからん。ただ、【神御の絵本】では、神御が化獣に勝利したとあるらしい。今度は三つの絵本を追って見ようと思っている。そこで、新たな動力が手に入るかも知れん」
「お供します」
「クラシックが治ったら、幸せにしてやってくれ。あの子には子供を産む事も出来るようにする。子孫を残してくれ。俺はそれを見守って行こうと思っている。だめか?」
「い、いえ、お父さんにそう言っていただけると僕は……でもどうしたんです?急に……」
「……別に……ただ、急に、自分こそが最強だと信じて疑わなかったのがバカらしくなっただけだ。人には分相応な運命がある。俺は最強には届かなかった。ただ、それだけのことだ」
「そんな……」
「後の時代の若者にも【クアンスティータ】と【クアースリータ】に触れてはならないと伝える必要がある。そのためにも最低限の情報だけは調べておく必要がある。領域を侵そうとしなければ、あれは出てこないと思う。あれらには力に限界のある人の身で触れるべきじゃない」
「そうですか」
「あぁ……」
「………」
 その後は俺とギャロップは黙りだった。
 いつからこんなに牙をもがれたような性格になったんだと自己嫌悪もした。
 だが、それを改められない、弱い自分が常に顔を出した。

 俺のこれからの冒険は地球を支配するという攻めの姿勢から誰かを危険から遠ざけるという守りの姿勢になった。


第三章 神御の絵本と悪空魔の絵本

 俺は三つの絵本を中心に神話を調べる事にした。
 スペースアーカイブにある文献をあさる事にしたので、ギャロップにも調べ物の手伝いをしてもらった。
 そこには、俺の知識など、ホコリクズほどにも満たない程の情報量があった。
 正直、データ量が多すぎるので、何かしらコツを持って探さないと見つからないと思ったが、目的のデータにたどり着いたのは速読法を身につけている俺ではなく、ギャロップだった。
「お父さん、これもしかして?」
「そうかも知れん。何処にあったんだ?」
「あっちのコーナーに」
「……あそこは、民間伝承のコーナーじゃ……最強と言われているからてっきりメジャーなコーナーかと思っていたが、盲点だった。これは神御の絵本の写本だ。他に、悪空魔の絵本と化獣の絵本の写本も近くにあるかも知れない。そこを重点的に探そう」
 俺とギャロップは民間伝承のコーナーを探したが、結局、見つかったのは神御の絵本の写本一冊だけだった。

 何にしても、これは収穫だ。
 化獣を討ちはたし、悪空魔も退けたとされる神御の絵本になら何か良いヒントの様な物が隠されているかも知れん。
 俺は、ページをめくっていった。

 神御の絵本――
 それは紛れもなく絵本だった。
 神御の偉業を讃えた絵本だ。

 ――ある時、世の中には【ニナ】という魔女が住んでいました。
 【ニナ】は悪逆非道の限りをつくし、人々を恐怖のどん底にたたき落としていました。
 人々は不安と恐怖で今にも押しつぶされそうでした。
 だけど、【ニナ】には夫、【ファーブラ・フィクタ】との間にもうけた子供、化獣達がついているため、何も言えませんでした。
 その時、立ち上がったのは83の存在、八三御(はさみ)です。
 八三御は化獣を倒していきました。
 化獣は十三核存在し、一核一核はとても強大な力を持ち、一対一では勝てませんでした。
 だけど、協力し合わない化獣同士に対して、八三御は力を合わせて立ち向かった事。
 その中で一番強かった一番と七番の化獣が争って共倒れになった事。
 十番から十三番までの化獣がまだ産まれていなかったという幸運も味方して、八三御は勝利をおさめました。
 特に、十三番の化獣【クアンスティータ】が産まれていたら八三御に勝ち目はありませんでした。
 くわばら、くわばら。

 八三御は【ニナ】から七つの世界を受け継ぎ、七つの世界を司るようになりました。
 ところが、その七つの世界の取り分を巡って、八三御は二つに分裂します。
 正しい気持ちで世界を見守ろうとする四一柱と邪な気持ちで支配しようとする四二柱とに分かれました。
 やがて、それらは、41神(よいかみ)から神御と呼ばれる存在と42神(しにがみ)から悪空魔と呼ばれる存在の二つに分かれて世界を奪い合う事になります。
 この戦いに勝利した神御は4つの世界を司る事になります。
 すなわち、天界、楽園界、仙界、人間界の四つです。
 戦いに敗れた悪空魔は魔界、幽界、冥界の三つを支配する事になります。
 神御の情けで生き延びた悪空魔は今も四つの世界を奪い取ろうと虎視眈々と狙っています。
 皆さん、気をつけましょう。

 ――というものだった。

 これで終わりかと思ったが、まだ、ページ数があるので、めくって見たら、裏表紙から悪空魔の絵本が始まっていた。

 神御と悪空魔は表裏一体という事なのだろう。
 チラッと、結末を見てしまったが、俺は裏表紙から改めて、悪空魔の絵本も見てみる事にした。

 悪空魔の絵本――
 これも紛れもなく絵本だった。
 悪空魔の強さを讃えた絵本だ。

 ――ある時、世の中には【ニナ】という魔女が住んでいました。
 【ニナ】は悪逆非道の限りをつくし、人々を恐怖のどん底にたたき落としていました。
 人々は不安と恐怖で今にも押しつぶされそうでした。
 だけど、【ニナ】には夫、【ファーブラ・フィクタ】との間にもうけた子供、化獣達がついているため、何も言えませんでした。
 その時、立ち上がったのは83の存在、八三御(はさみ)です。
 八三御は化獣を倒していきました。
 化獣は十三核存在し、一核一核はとても強大な力を持ち、一対一では勝てませんでした。
 だけど、協力し合わない化獣同士に対して、八三御は力を合わせて立ち向かった事。
 その中で一番強かった一番と七番の化獣が争って共倒れになった事。
 十番から十三番までの化獣がまだ産まれていなかったという幸運も味方して、八三御は勝利をおさめました。
 特に、十三番の化獣【クアンスティータ】が産まれていたら八三御に勝ち目はありませんでした。
 くわばら、くわばら。

 八三御は【ニナ】から七つの世界を受け継ぎ、七つの世界を司るようになりました。
 ところが、その七つの世界の取り分を巡って、八三御は二つに分裂します。
 良き指導者として世界を支配しようとする四二柱と所有だけして放置しようとする四一柱に分かれました。
 やがて、それらは、42神(しにがみ)から悪空魔と呼ばれる存在と41神(よいかみ)から神御と呼ばれる存在の二つに分かれて世界を奪い合う事になります。
 この戦いに勝利した悪空魔は4つの世界を支配する事になります。
 すなわち、魔界、幽界、冥界、人間界の四つです。
 戦いに敗れた神御は天界、楽園界、仙界、の三つを所有する事になります。
 悪空魔の情けで生き延びた神御は今も四つの世界を奪い取ろうと虎視眈々と狙っています。
 皆さん、気をつけましょう。

 ――というものだった。

 神御の絵本との違いだが、化獣を倒す所までは一緒で、【ニナ】という化獣の母親から七つの世界を奪い取ってからが違う事を描いていた。
 立場の違いからか、神御の絵本は神御が勝利し、四つの世界を手にしたとあり、悪空魔の絵本は悪空魔が勝利し、四つの世界を手にしたとある。
 どちらも人間界はそれぞれが手にしたとあるな。
 負けた方が三つの世界を手にしているとある。
 どちらが真実を描いているかは解らない。
 文献などは、どちらも味方をしている方に都合良く描いているものだ。
 当事者でも無い限り、どちらが正しいか、どちらが間違っているかだなんてわからない。
 あるいはどちらも間違っているかも知れない。
 もう一つ、化獣の絵本だって存在する訳だし。

 神御の絵本と悪空魔の絵本は結局、神御の書、悪空魔の書の代表的な部分を子供にも解りやすくまとめた本に過ぎないようだ。
 俺が本当に探すべきは神御の書と悪空魔の書かも知れない。
 だが、絵本というのは短くまとめて的確に指摘しているとも考えられる。
 決して無視するべきものではない。
 少なくとも、絵本ではどちらも【クアンスティータ】は恐ろしい存在だと唄っている。
 【クアンスティータ】に関わるべきではないというのはどちらの絵本を読んでも共通して伝わる。
 神御の書、悪空魔の書、化獣の書を探すのは、残る一つ、化獣の絵本を探し出した後で探すべきだと俺は判断した。


第四章 別の神話

 文献を探す俺達の前に、ニガティーが再び現れた。
 どうやら、また酒をせびるつもりらしい。
 俺は苦笑いをしつつ、特上の酒を振る舞った。
 俺は今まで生きてきて稼いできた蓄えが山ほどある。
 老婆一人に酒を奢るくらい全く訳はない。

「おたくは、前と変わったねぇ。恐れを知った目だ。【クアンスティータ】に関わって命が助かったんだ。それをありがたいと思わないとね」
「ご忠告ありがとうと言うべきだな。俺はあんたの言葉を思い出し、逃げる事が出来た。とりあえず礼を言う」
「あんたは強い神話を探しているって聞いたからね。あたしの知識と人脈を総動員させて、調べてきたよ。二番手の神話はあたしの知る限り、もう、数える程しか残っちゃいない。残りは、全て、【ロストネットワールド】の中さ。あんた、もう知ってるんだろう?、【クアースリータ】が受け継ぐと言われている世界の事さ」
「俺は【クアンスティータ】と【クアースリータ】を追わない事に決めた」
「それが良いさ。手の届かない所に無理して行ってもおっちぬだけさ」
「二番手の話――聞かせてくれるか?俺はそれで、十分、満足だ」
「そうか、そうか」
 ニガティーはしわくちゃの顔をなおも、くしゃくしゃにして笑った。
 ニガティーはいくつかの神話を説明してくれた。
 どれも興味が引きそうな神話だったが、どうにも奥歯に物が挟まったような言い方をする彼女に俺はしびれをきらし――
「俺に行って欲しい神話はその中には無いんだろ?」
 と言った。
「あ、あぁ……実はな……その……あたしの世界なんだよ……行って欲しいのは……」
「あんたの?……あんた、神族か何かだったのか?」
 俺はギョッとなった。
 どうも、俺にかまってくるとは思っていたが、向こうからアプローチして来ていたとはな。
 気付かなかった。
「あたしは、スカイハイ神話で第一雲界(だいいちうんかい)を司っている女神の一柱じゃ。女神リディアというのが本名じゃ」
「女神リディアねぇ……」
 俺がつぶやくとニガティーの老婆の姿から、綺麗な女性の姿へと変わった。
ジョージ001話04 正に女神と言うのにふさわしい程の美貌だ。
 ふと、見ると、俺とリディア以外の者は動きを止めている。
 時を止める力があるらしく、俺とリディア以外の時は止まっているようだ。
 どうやら内密の話があるらしい。
「私は、占術が得意な女神でもあります」
 口調まで変わった。
「その女神様が俺になんのご用で?」
「恥ずかしながら、我が神話は手癖の悪い神が多く集まる神話でして、他の神話からはぐれた物などを取り込んだりしている神が少なからずいるのを否定できません」
「話が見えないんですが?」
「順を追って説明いたします。スカイハイ神話は第一雲界から第千雲界までありますので、その全てをというわけではありません。お願いとしては第十雲界までを冒険して来ていただきたいのです」
「何故?」
「正確には第十雲界の神竜が持っている~玉をあなたに所有して欲しいのです。その神竜が持っているのは~玉ではなく、ある化獣の核なのです」
「化獣……【ファーブラ・フィクタ】神話の?」
「はい。七番の化獣、ルフォスの核です。このまま、神竜が核を持ち続ければ、近い内に、一番の化獣、ティアグラの刺客の襲撃を受けてスカイハイ神話は壊滅状態になると私の占術によって判明しました。ですが、ルフォスの核をあなたが所有し、千年ののちに現れるあなたの後継者に渡せれば、その後継者はかつて無い勇者となると出ました」
「後継者……」
「もちろん、スカイハイ神話はそれで、難を一時的に逃れる事が出来ます」
「一時的?」
「はい、あなたの後継者はその後、【クアンスティータ】と【クアースリータ】に関わる事になります。さすがに、この二核が関わると私の占術では結果を見ることは叶いません。どうなるかは全くわからないという状態です」
「俺の後継者がそんな危険な目に合うってのか?」
「はい。ですが、ルフォスの核を手に入れなければ、千年後にあなた方は滅ぼされます。ずっと格下の侵略者達によって――それを回避するにはルフォスの核が必要です」
「どっちにしろ選択の余地は無いって事か?」
「はい。残念ながら……それと、写本で良ろしいのでしたら、第三雲界にすむ神仙が【化獣の絵本】を持っています。彼は気の良い神ですので、話相手になって下されば、見せてもらえると思いますよ」
「【化獣の絵本】か……」
「それに地球での力はセカンド・アースでは半減以下になります。スカイハイ神話でセカンド・アース用に力の整理をされてはいかがですか?それに……」
「それに……何?」
「あなたは口調が九千年生きてきたにしては幼いと思いませんか?」
「どういう事だ?」
「あなたは二十代くらいの男性くらいの物の考え方になっているという事ですよ。すでに、長年の経験を奪われています」
「誰に?」
「インモータリティー神話の悪魔神、デスハデスです」
「そんな奴に狙われる理由が全く思いつかないんだが?」
「あなたには無くても向こうにはあるのです。インモータリティー神話とは不死の神話です。存在する者の大半が不老不死です」
「な……不老不死……」
「驚く事ではありません。やがて、不老不死も絶対ではない時代が来ます。そして、インモータリティー神話にとって面白くなかったのは、あなたの後継者が不老不死を容易く倒せる力を持つと知ったからです。不老不死が絶対ではないと知った彼らが良く思わないのは容易に想像がつきますよね?」
 不老不死と言えば、俺がいた地球でも敵わない者の象徴とでも言うべき存在だ。
 それを容易く倒す……だと?
 俄には信じがたい言葉を聞いた。
 思考が停止していると続けざまリディアが告げた。
「インモータリティー神話の者は【クアンスティータ】が出現しても不死身である自分達は大丈夫だと思っています。ですが、それを否定する力を持つ者がいた。それも、【クアンスティータ】ではなく、もっと格下の存在だということ。それは、【クアンスティータ】が現れても安全だという過信を根底から揺るがすものでした。彼らはそれが許せないのです。そんな存在の元を絶とうとその師であるあなたを狙ったのです。あなたはエナジードレインの効果をかなりの割合で受けている。72体の声像が瞬く間に崩れ去ったのもそれが原因です」
 あの時は、【クアンスティータ】に関わった者が体感する恐怖で気が動転していたが、確かに、為す術なく、声像は崩壊した。
 俺とした事がすでに横やりが入っていた事に気付かなかったとは。
 どうやら、そいつらともけりをつけなくちゃならないみたいだな。
「ムカムカしてきたな」
「お怒りはごもっともですが、まずは、スカイハイ神話をお願いします。ルフォスの核の力を使えば、インモータリティー神話の者が束になってもどうにもなりませんので」
「わかった。まずは、スカイハイ神話だ。次は……」
 俺は顔を歪めて静かに怒った。
 虚仮にされた気分だった。
 許せなかった。

 こうして、俺の神話を巡る冒険の再スタートが決まった。


第五章 化獣の絵本

 俺は女神リディアの導きによって、第二雲界から冒険を始めた。
 第二雲界では、大怪鳥クフェーが持ってきていた【ファーブラ・フィクタ】神話の神御のアイテム、【神王の息吹】という宝石を手に入れ、クラシックの新たな動力にした。
 クラシックは動きこそ、まだ鈍っていたが、再び、生命を得た。
 続く第三雲界では、探していた化獣の絵本の写本を見ることが出来た。
 リディアの占術通り、神仙が持っていた。
 神仙 御稀納(おきな)の話を聞いていく内に、書庫から持ってきたのが、それだった。
「これを見たかったんじゃろ?」
「あ、あぁ、そうです。ありがとう」
「わたしは席を外しとるからじっくり見たらええ」
「すみません」
「さて、茶でも飲んでくるかの」
 そういうと御稀納は消えた。
 俺は、化獣の絵本をめくっていくことにした。


 神御の絵本――
 これも紛れもなく絵本だった。
 神御の絵本とも悪空魔の絵本とも違うことが描かれていた。

 ――【ニナ】は【ファーブラ・フィクタ】と恋に落ちた。
 やがて、【レインミリー】という娘をもうける。
 【ニナ】達親子は幸せに暮らしていました。

 ところが、ある日、【レインミリー】にお願いがあると言って来た存在がいました。
 深~(しんじん)と頂魔(ちょうま)です。
 困っている存在の頼みなら聞いてあげなさいと【ニナ】と【ファーブラ・フィクタ】は快く送り出しました。
 そして、深~と頂魔の元へ【レインミリー】がお使いに行く日々が続きました。
 ところが、その日を境に、【レインミリー】は日に日に衰弱していきました。
 【ニナ】達が回復させても、次の日にはまた、衰弱して帰ってくるのです。
 余りにもそれが続くものですから、【ニナ】は【ファーブラ・フィクタ】と共に【レインミリー】の後をこっそりついて行くことにしました。

 そこで解った事。
 ――それは、深~は神の、頂魔は悪魔の頂点に立つために【レインミリー】にあらゆる手に余る程の苦しみを吸収させていたのです。
 病よりも酷い苦しみを一身に背負わされていた【レインミリー】の苦痛は想像することすら出来ない程のものでした。
 怒りに震える【ニナ】と【ファーブラ・フィクタ】は次々と化獣を産み出していきます。
 本当は、自ら復讐したかったのですが、【ニナ】と【ファーブラ・フィクタ】は苦しみ続ける心優しい娘、【レインミリー】を産みなおす必要があったのです。
 ありったけの力を込めて【クアンスティータ】として産みなおす必要が。

 また、産み出た化獣は次々と暴れ出し、神と悪魔の聖域、領域を破壊していきます。
 一番の化獣 【ティアグラ】
 二番の化獣 【フリーアローラ】
 三番の化獣 【ウィルウプス・アクルス】
 四番の化獣 【クルムレピターク】
 五番の化獣 【ルルボア】
 六番の化獣 【ウオーム】
 七番の化獣 【ルフォス】
 八番の化獣 【オリウァンコ】
 九番の化獣 【ウェルイムス】
 その力はとてつもなく、神と悪魔の軍は一気に劣勢になりました。
 このままでは、神と悪魔が滅びるまで時間の問題でした。

 でも、狡猾な神と悪魔は罠を仕掛けます。
 【ニナ】に過剰な栄養を送り込んだのです。
 栄養を吸収しすぎた【ニナ】は最後の化獣【クアンスティータ】を産み落とすのに、七つの母体が必要だと知ります。
 それにショックを受けた【ニナ】は
 十番の化獣 【ティルウムス】
 十一番の化獣 【レーヌプス】
 十二番の化獣 【クアースリータ】
 十三番の化獣 【クアンスティータ】
 を産み落とす前に亡くなりました。
 妻の死を知り、【ファーブラ・フィクタ】も何処かへと消えました。

 母の死と父の失踪を知った九核の化獣は動揺しました。
 我こそは最強だとそれぞれ争いを始めました。
 特に、母から世界を司る力を受け継いでいた【ティアグラ】と【ルフォス】の諍いは凄まじく、お互いが共倒れになるまで続きました。
 そして、残った七核の化獣は深~の配下の神御と頂魔の配下の悪空魔の策略によって倒されていきました。
 最後に残ったのは父、【ファーブラ・フィクタ】の叫んだ
「クアンスティータさえ産まれていればお前達など、一溜まりもなかったのに……」
 という言葉でした。
 敗れこそはしましたが、その言葉が神と悪魔に対して深い恐怖として残りました。

 ――というものだった。

 神御の絵本とも悪空魔の絵本とも内容が大きく違い、神御の上に【深~】が、悪空魔の上に【頂魔】がいるという事も知らなかったし、【ニナ】と【ファーブラ・フィクタ】の間の娘、【レインミリー】の存在も初耳だった。
 そして、何より、この絵本には十三核の化獣全ての名前が記されていたこともあった。
 俺が探す七番の化獣【ルフォス】の名前もしっかり記されていた。
 この絵本が真実だとすると神と悪魔はその威光を示すために【ニナ】達親子を利用したという事になっている。
 【クアンスティータ】の元になるはずだった【レインミリー】が全ての手に余る苦しみを俺達全ての生命の代わりに受けたのだとすると、【クアンスティータ】には俺達を滅ぼす権利があるのか?とも考えさせられた。
 祖先のやったことは子孫には関係ない……とは言えないのかも知れない。
 俺達が生きているという事は脅威となる病以上の何かを【レインミリー】が引き受けてくれたからだとも考えられる。
 目には目を歯には歯を……やられたらやり返すというのが良いとは言わないが……
 何が正しくて、何が間違っているかが解らなくなってしまった。

「考えさせられる絵本じゃったろ?」
「御稀納さん……」
 俺が、悩んでいるといつの間にか現れて声をかけてきた。
 神や悪魔が人々から崇拝されたり恐れられるのには、その前に何かがあったからだとも考えられる。
 例えば、神が威光を示すのにやった行いは?
 それを考えると――
 今までは天や地、人などを産みだしたと思ってきた。
 本当にそうなのか?
 神が全てを作ったのか?
 神以外にも何かあったのではないのか?
 ……だめだ。
 考え過ぎてまとまらない。
「ふぉっほっ、まぁ、悩みなされ。そして、それを次代に伝えなされ。お主には無理でも後に続く者が何かしてくれるかも知れん」
「……ありがとうございました。冒険が一段落したら、俺は引退して、次代のために出来る事をやっていきます」
「それが、ええ。次代はお主より、凄い男になると思うぞい。まずは、第十雲界の偏屈神竜から核を奪って来なさい」
「はい。では……」
「元気での」
 御稀納に見送られ、俺は第三雲界を後にした。


第六章 それから……

「それからどうなったんです?」
 白鳥君が続きをせかす。
「それは、まぁ、第十雲界まで進んだんじゃよ。無事にルフォスの核を手にしたは良いが、うんともすんとも言わなくてのう。孤児院の食堂に飾りとして置いておいたんじゃが、運命というかなんというか、吟侍がルフォスの核を手にすることになったと……そういう訳じゃ」
「ちょっと、はしょり過ぎじゃないですか。その後のインモータリティー神話とかはどうなったんですか?ギャロップ国王とクラシックさんの恋愛は?吟侍君が出てくるまで千年あるんですから、何か他にも色々とあったんじゃないんですか?」
「いや、まぁ合ったには色々とあったが、話すと長くなりそうじゃし、このくらいで良いではないか」
「良くないです。不完全燃焼も良いところじゃないですか?もっと話して下さいよ。ねぇ……」
「うん……また今度な……」
「待って下さいよぉ」
「おぉ、そうそう、ワシの声像は今、ソナタ姫が使っているCV4としてリニューアルされておるよ」
「そうですか。では、そのエピソードも……」
「だから、また今度」
 ワシはそそくさと退散した。
ジョージ001話05 こっ恥ずかしくて、昔の話などベラベラとしゃべっておれんからな。

 さて、導造のやつにはエンジェルユニット辺りでも作って仕送りするかな。
 琴太とカノン姫にはどれが良いかの?
 吟侍は、……まぁ、心配ないじゃろ。
 あやつは最強の勇者なんじゃから。

完。


登場キャラクター説明


001 ジョージ・オールウェイズ

本作の主人公。
ジョージ・オールウェイズ 【ファーブラ・フィクタ】の主人公、吟侍達の育ての親であり、ヒロイン、カノンのメロディアス王家の最初の妃、クラシックをホムンクルスとして作り出した存在。
 地球時代、様々な名前と姿形をとって九千年の時を過ごしたが、追い出され、復讐を誓ったという過去を持つ。
 現在は、孤児院、セントクロスで神父をして、孤児を育てている。
 冒険の末、七番の化獣(ばけもの)ルフォスの核を持ち帰る。
 クアンスティータ、クアースリータに対して、恐怖を抱く。



002 白鳥 健三(しらとり けんぞう)

 ジョージの孤児院に手伝いに来ている助手。
 セカンド・アースの勇者、吟侍に憧れを持っていて、その恋人、カノンに密かな恋心を持っている。
 少しでも二人に近づきたくてセントクロスに手伝いにやってきた。
 暇をもて余してはジョージの武勇伝を聞きたがる伝説オタクでもある。

003 クラシック・ハルモニウム

クラシック・ハルモニウム ジョージの力の半分をつぎ込んだ最強のホムンクルス。
 戦闘用として作られたが、後にカノン達のメロディアス王家の最初の妃となる。
 最初はしゃべれなかったが、徐々にカスタマイズされていく。












004 ギャロップ・オルタード・メロディアス

ギャロップ・オルタード・メロディアス カノン達のメロディアス王家の最初の国王。
 ジョージが地球で連れてきた仲間達の子孫にあたる。
 建国したばかりの国を放っておいてジョージにくっついて冒険をする。
 役立たずだと思われがちだが、意外な所で役に立つこともあった。









005 ニガティー(女神リディア)

ニガティー/リディア 酒飲みの老婆。
 千年前のジョージに近づき、酒を報酬に情報を教える。
 正体はスカイハイ神話の第一雲界を司る女神。
 ジョージに七番の化獣ルフォスの核を引き取ってもらおうとする。









006 クアンスティータ

クアンスティータ 【ファーブラ・フィクタ】神話において最強とされる13番の化獣(ばけもの)。
 誕生させていたら神や悪魔側に勝利は無かったとされている。
 一番のティアグラが過去を司り、七番のルフォスが現在を司り、十三番のクアンスティータが未来を司るとされている。
 その生誕と正体には多くの謎が残されていて【化獣の絵本】では心優しき少女、【レインミリー】の生まれ変わりとされている。
 神話の時代、母の【ニナ】が必要以上の栄養を取ってしまい、誕生には七名の母体が必要になってしまったため、誕生することは無かった。
 だが、誕生させていたら全てが終わりだというどうしようもない程の恐怖だけは神や悪魔側に深く刻みつけた。
 クアンスティータが母、【ニナ】から受け継ぐ予定だった世界の数は二十四と他の化獣をも圧倒する。
 七つの本体、十七の側体を持つとされていて、更にその奥?が存在するとも言われている。


007 クアースリータ

クアースリータ 【ファーブラ・フィクタ】神話において最強とされるクアンスティータの双子の姉とされる12番の化獣(ばけもの)。
 クアンスティータの誤記としても伝えられていたが、別の存在であることが判明。
 クアンスティータを別にすれば、世界そのものを譲り受けたのは一番のティアグラと七番のルフォス、そして、この十二番のクアースリータのみだと言われている。
 クアンスティータを恐れた殆どの強者(ナンバー2を自負する存在達)はクアンスティータを恐れるためにクアースリータの所有する世界、ロストネットワールドに逃げ込んだとされている。
 そのため、ロストネットワールドは様々な神話を取り込み大きくなっていっている。
 神話の時代はクアンスティータ同様に誕生しなかった。



008 ルフォス

ルフォス 【ファーブラ・フィクタ】神話において、一番の化獣(ばけもの)ティアグラと覇権を巡って争って共倒れしたとされる七番の化獣。
 ティアグラ、クアンスティータと共に三大化獣とされている。
 現在を司るとされている。
 世界を一つ所有していて、後の時代の勇者(吟侍)達の重要な戦力を作り出す事になる。
 今作においては核の状態で、スカイハイ神話の神竜の~玉として存在している。




009 ティアグラ

ティアグラ 【ファーブラ・フィクタ】神話において、七番の化獣(ばけもの)ルフォスと覇権を巡って争って共倒れしたとされる一番の化獣。
 ルフォス、クアンスティータと共に三大化獣とされている。
 過去を司るとされている。
 世界を一つ所有している。